最初の「仕組み化」で直面した理想と現実のギャップ

前回の記事では、個人の意欲に頼るのをやめ、真の意味で仕組み化(環境設計)へと舵を切らなければならないと悟った日のことを書きました。

今回は、その決意の直後に打った「最初の一手」と、そこから得た気づきについて書いてみたいと思います。


最初の「仕組み化」

「まずは、現場が動きやすい仕組みを作ってみよう」

そう考えた私は、いくつかのツールを現場に投入しました。

  • 気まずい空き時間をなくすための「リハ科ToDoリスト」
  • 若手が迷わず学べるようにするための「学習チェックリスト」
  • 現場の不満や改善点を拾い上げるための「ご意見投書箱」

これらを導入した時、私は「これで何かが変わってくれるかもしれない」と期待していました。

やるべきことが可視化されれば、スタッフは自発的に動きやすくなるだろう。
そんなふうに考えていたのです。

しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。

これらのツールは、見事に空回りしたのです。


ToDoリストが生んだ不公平感

月間のToDoリストのタスクは、結局いつも特定の頑張るスタッフだけが消化し、不公平感を生みました。

空き時間にやるはずのToDoは、「具体的なやり方がわからない」と放置され、結局私が説明に回らなければ進みませんでした。

ご意見箱には、1枚の紙も入ることはありませんでした。

責任者になったばかりの頃の私なら、「なぜやってくれないんだ」と裏切られたような気持ちになり、絶望していたかもしれません。

しかし、この時期の私は少し違いました。

不公平な負担を背負わせてしまった頑張るスタッフに対しては「本当に申し訳ない」と痛感しつつ、意図通りに動けないスタッフに対しては「まあ、しょうがないよね」という諦め半分のドライな気持ちもありました。

今までうまくいかない原因を「外(スタッフ)」に求めていた状態から、徐々に「自分」に見出すようになり、自分と他者とのギャップをすり合わせようとしていた過渡期だったのだと思います。


「伝わっているつもり」という錯覚

「自分ならこのリストを見ればパッと動ける。でも、ああ、これだけの情報じゃうまく伝わらないのね」

前提知識の量も、制度への理解度も全く違うのに、ただリストを投げただけで動けるはずがなかったのです。

そして、この「他者とのギャップ」を最も痛感したのが、「学習チェックリスト」でした。


チェックリストは埋まるのに、理解は深まらない

当時の私は、「〇〇について調べる」「〇〇ができる」という項目をリスト化して渡せば、若手は学んでいくと思っていました。

実際、彼らはリストに次々と「チェック(レ点)」をつけていきました。

しかし、チェックがついているのを見て知識の確認をしてみると、違和感を覚えました。

答えが、たどたどしいのです。

こちらの意図している到達点には全く達しておらず、ディスカッションをしていても知識が表面的で、ネットの情報を一つ丸写ししたような状態でした。

そこから「もう少し深い知識を探してみよう」と促しても、彼らはポカンとしています。

そもそも、「自分が何を理解できていないのか」がわかっていない感じだったのです。


「知識」ではなく「メタ認知」の問題だった

その時、ハッとしました。

「あぁ、これは知識の問題じゃない。
メタ認知の問題か!

私自身が若手の頃は、わからないことがあれば泥臭く手当たり次第に調べ、何冊もの専門書を読み比べて知識を繋ぎ合わせてきました。

しかし今は、検索すれば数秒で「答え」が手に入る時代です。

「調べる」という行為自体が変容している現代において、ただ「項目」を羅列したリストなど、何の意味も持ちませんでした。

「今の時代なら、そりゃそうなるか。これじゃダメだ、もっと詳しいロードマップを敷かなきゃな」

私は冷静にそう分析しました。

悪いのは彼らではありません。

真の意味で優れた治療者の実力は、泥臭い経験から得た「暗黙知」にあるのかもしれません。

しかし、それをそのまま初学者に求めるのは、あまりにもハードルが高すぎました。


「仕組み」として必要だったもの

私が本当に用意すべきだったのは、リストではありません。

  • なぜその業務・学習が必要なのかという「理由(Why)」
  • それを誰でも迷わず進められる「マニュアル(How)」
  • それに沿って進めれば自然と体系的な知識とメタ認知が身につく「ガイドライン(道筋)」

ツールを作るだけでは、人は動きません。

「制度の理由」と「具体的な方法論」がセットになって初めて、それは「仕組み」として機能する。

やってみて、うまくいかなかったからこそ分かったギャップでした。


プレイングマネージャーという壁

ここから私は、自分の頭の中にある「暗黙知」を言語化し、本当の意味での環境設計(マニュアル作り等)という泥臭い作業に足を踏み入れていく……はずでした。

しかし、ここでプレイングマネージャーとしての「最大の壁」に激突します。

それは、

「仕組みを作りたいが、目の前の臨床に追われて時間が全くない」

という物理的な壁です。

時間を作るには、スタッフを増やすしかない。

しかし経営陣から見れば、現状でも業務は回っており「人は足りている」という認識です。

当時の私は、自分自身のビジョンすら明確ではなく、「とにかく今のままじゃダメだ」という焦りだけで走っていました。

当然、そんなフワッとした熱意だけをぶつけても、経営陣が人を増やしてくれるわけがありません。


「だったら、彼らが納得する“武器”を使って、私の思い通りに動かしてやろう」

次回は、時間と人を勝ち取るために、私が打算的に用意した
「泥臭いデータ集め」について書いてみたいと思います。


皆さんは、良かれと思って作った「リスト」や「ルール」が、現場でうまく機能しなかった経験はありますか?
よければコメントで教えていただけるとうれしいです。

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