カテゴリー: 指導・教育

  • 整形外来という領域での実習指導。ずっと抱えてきたジレンマ

    前回の記事では、実習指導の標準化を試みた話について書きました。資質の確認リストや、目標設定を学生自身にさせる取り組み。共通の仕組みとして、ある程度の成果はあったように思います。

    ただ、それはあくまで「どの学生にも共通する基盤」の部分でした。

    今回書きたいのは、その先の話です。理学療法そのものの指導内容を、学生によってどう調整するか。これは長く、ずっと抱えてきたジレンマでもあります。


    昨今の実習指導の傾向

    最近の臨床実習は、どうしても標準的な指導にとどまる傾向があるように感じています。

    これは決して悪いことではありません。カリキュラム上必要なレベルは満たしているし、学生にとっても過度な負担を避けられる。指導者間でばらつきが出にくいというメリットもある。

    ただ、学生によっては「もったいない」と感じる場面があります。

    もっと吸収できそうなのに、標準的な範囲で終わってしまう学生。逆に、まだそこまで到達していないのに、踏み込んだ内容を求められて疲弊してしまう学生。

    理想を言えば、指導者側がうまく見極めて、学生ごとに調整できればいい。でも、現状ではそれがなかなか難しい。

    これは整形外来という現場に限った話ではないと思います。ただ、当院のような特化型のクリニックでは、その難しさが特に顕著に出ます。


    整形外来という領域の特殊性

    当院は整形外来を中心としたクリニックです。理学療法士としては整形外来という分野は良くも悪くも、特定の領域に特化した分野だと思います。

    理学療法士として必要な知識や技術には、どの領域でも共通する部分はあります。ただ、急性期や回復期、在宅、外来など、病期や領域によって優先されるべきものや、重視される視点が異なると思っています。当院は、その中の一つに特化しているということです。

    実習という観点で見ると、当院は実習指定校から多くの学生を受け入れていて、指導にも手をかけています。一方で、新卒の多くは病院に就職するという現実もある。当院での学びが、就職後すぐに最も使われる知識とは限らない学生も多いのです。

    ここに、ずっと抱えてきたジレンマがあります。


    熱量のミスマッチ

    ジレンマの核心は、指導者と学生の「熱量のミスマッチ」です。

    整形外来分野に興味があり、学習意欲も高い学生に対して、指導者側が標準的な指導にとどまってしまうのは、もったいない。整形外来分野で長くやってきた理学療法士として、もっと伝えられることがあるのにという気持ちが残ります。

    逆に、指導者側の熱量が高くて、学生の熱量がそこに追いついていないとき。これも問題です。学生にとっては「カリキュラム上の実習」として臨んでいるのに、指導者側が踏み込みすぎると、押し付けになります。実習としてマイナスの影響のほうが大きくなることもある。

    両方向のミスマッチが、ずっと続いてきました。


    「まず病院から」という業界の固定観念

    もう一つ、背景として触れておきたいのは、業界の固定観念です。

    理学療法士の業界には、「まず病院から」という風潮があるように感じます。新卒はとりあえず病院に就職して、幅広く経験を積むべきだ、という考え方です。

    それ自体が間違っているとは思いません。実際、多くの新卒がそのキャリアパスを選んでいるし、それで成長していく人も多い。

    ただ、整形外来分野に興味があるけれど、「自分の選択は普通じゃないかもしれない」と尻込みする学生もいます。実習を通じて、整形外来という選択肢があることを知ってもらえれば、と思うこともあります。

    選択肢を提示する。それだけでも、実習に意味があるのかもしれない。そう考えるようになりました。


    オリエンテーションでのヒアリング

    そこで、実習の最初のオリエンテーションで、学生から情報を聞くようにしました。

    これまでの実習先(どの病期だったか)、次の実習先、自分の興味、就職先の希望。これを聞いた上で、その学生にどんな実習にできるかを考えます。

    同時に、学生に対しても、こちらの考え方を明示しています。

    伝えていることは、おおむね次の通りです。

    • カリキュラム上必要な内容は、すべての学生に同じだけ提供する
    • それを満たしている限り、評価が下がることはない
    • ただ、当院は整形外来に特化しているので、それ以上に深められる内容もある
    • ただし、それは「絶対的に優れた知識」ではなく、「整形外来という領域での優先度が高い内容」だということ
    • 急性期には急性期の、回復期には回復期の、それぞれの優先順位がある
    • ここを深めることが、必ずしも理学療法士として有益とは限らない

    このあたりを、最初に伝えるようにしています。


    その上での方向性の調整

    この前提を共有した上で、学生のニーズと姿勢に応じて、指導の方向性を調整しています。

    整形外来分野に興味があり、熱量も高い学生には、整形に特化したチェックリストを用意して、より深い内容まで指導します。学生自身が踏み込んできた領域には、こちらも応えるようにしています。

    入院系志望の学生には、整形外来でも経験できる範囲で、より網羅的な内容を意識します。

    ここで気をつけているのは、「質を変えない」ということです。

    指導にかける時間や、こちらの真剣度は、どの学生に対しても変えていません。学生選別をしているわけではない。「マスト」の部分は、すべての学生に同じだけ提供しています。

    変えているのは、その先の方向性だけです。


    残る課題

    ただ、この運用にも課題が残っています。

    「マスト」と「プラスα」の線引きが、まだ感覚に依存している部分が大きいのです。

    カリキュラム上のマストは、ある程度明文化できています。ただ、その先のプラスαを、どの学生に、どこまで、どのタイミングで提示するか。これを判断する基準が、まだ仕組み化できていません。

    学生の熱量を見極めるのも、結局は指導者の感覚です。実習の途中で学生の興味が変わることもあるし、最初は控えめだった学生が後半に伸びてくることもある。さらに、整形外来のクリニックに来ていて、学生の側から「整形にはあまり興味がありません」とは言いにくい部分もあるはずです。そういった事情も考慮しながら、結局は指導者の判断に委ねられているのが現状です。

    カリキュラムとしての実習という体裁は崩したくない。でも、その範囲内で、どこまで実りあるものに昇華できるか。これを「感覚」ではなく「仕組み」で実現できないものか。

    ここはまだ、模索の途中です。


    完成形ではなく、模索の途中

    ここまで書いてきた取り組みは、完成した仕組みではありません。

    整形外来という特化した領域で、限られた実習期間の中で、学生にとって意味のある時間にしたい。指導者として伝えたいこともある。でも、押し付けにはしたくない。学生の進路や興味も尊重したい。

    そのバランスを、いまも模索しています。

    同じような特化型の現場で実習を受け入れている方は、どう調整されているのでしょうか。マストとプラスαの線引きを仕組み化している事例があれば、ぜひ教えていただきたいです。

  • 実習指導の標準化を試みた話。うまくいったこと、いかなかったこと

    前回の記事では、実習指導における葛藤と、考え方が少しずつ変わっていった過程について書きました。

    今回は、意識が変わった段階で、次に必要だった「具体的な仕組み」について書いてみます。

    うまくいっていない点はある程度感じていました。ただ、具体的にどうすれば良いのかはわかっていませんでした。ひとまず、自分が担当する学生の時に、良いと思うものをいろいろと試してみよう。そう思って、いくつかの取り組みを始めました。


    「資質」という躓き

    実習をしていると、いろいろな学生がいます。知識があるかどうか、できるかどうかとは別に、スタッフ間で好感を得られる学生もいれば、そうでもない学生もいる。

    実習を良い雰囲気で進めるためには、スタッフ側の意識も課題です。ただ、それを変えるのも一筋縄ではいかない。一方で、学生側にも修正すべき点があるなら、それは修正すべきものとして教える必要がある。「自分で気づいて努力しなさい」ではなく、システムとして教育することが必要だと考えました。

    養成校の評価表にも「理学療法士としての資質」といった項目があります。コミュニケーション能力が理学療法士にとって重要なのは確かです。

    ただ、実習という環境は特殊です。指導する側とされる側、評価する側とされる側。すでに完成されている環境に、たった一人で飛び込む。数週間から数ヶ月という短い期間の、その場限りの関係性。

    そんな中で、本当にその人の資質が測れるのでしょうか。

    たとえば、気を遣って思慮深く、良かれと思って邪魔にならないようにおとなしくしている学生がいます。一方で、空気は読まずに思ったことをすぐに言葉にする学生もいます。「積極的なコミュニケーション」という観点では、後者の方が評価されるかもしれません。

    でも、実際に働き始めて時間が経ち、関係が構築されると、その評価が逆転することもあります。

    実習という特殊な環境下では、本来の自分の持っている能力を発揮できない学生が多いように感じました。また、社会人としての経験も少なく、「できない」のではなく「知らないだけ」であることも多い。

    それを何とかできないか。そう考えて、資質という曖昧な評価項目を、具体的な行動レベルに分解し、ステップアップ方式でチェックリストを作成しました。


    目標設定を学生自身にさせる

    もう一つ試みたのは、学生自身に目標設定をさせることでした。

    近年の実習形態は、どうしても受動的になりがちです。見学から共同参加、実施という流れの中で、「言われたことをやる」という姿勢になりやすい。

    そこで、実習自体の目標を自分で立ててもらうようにしました。

    目標は、理学療法と同様に長期目標から短期目標へと落とし込む形にし、長期目標の達成のために短期目標を3〜4ステップで設定する。達成できたか・できなかったかを判定できるようにする。達成するための具体的な行動も記載する。

    これを、社会面と勉強面のそれぞれで取り組んでもらいました。

    自分で目標を立てることで、実習が「やらされるもの」から「自分で取り組むもの」に少しでも変わればいい。そう考えていました。

    また、実習のためだけでなく、将来的に自分自身のキャリアデザインをセルフマネジメントできるようになるためのきっかけになればという思いもありました。


    うまくいった点

    これらの取り組みには、一定の効果がありました。

    チェックリストを用いることで、他のスタッフに進捗状況を伝えやすくなり、「今この段階まで進んでいる」「次はここを目指している」ということが、指導者間で共有しやすくなった。

    学生側にとっても、次に何を目指せばよいのかがわかりやすくなりました。「どうすれば良いのかわからない」という戸惑いが減ったように思います。

    目標設定についても、自分で考えることで、実習に対する主体性が少し生まれたように感じました。


    うまくいかなかった点

    一方で、課題も見えてきました。

    チェックリストは学生と共有し、週1回一緒にチェックする形で運用していました。

    ただ、学生によっては「リストに載っていることだけやればいい」という思考になってしまうケースがありました。チェックをこなすことが目的になり、本来の意味が薄れてしまう。

    また、チェックをつける「合格レベル」の判断が、学生によって違うという問題もありました。こちらがチェックしてもいいと思うレベルでも、慎重でチェックをつけない学生もいる。逆に、まだチェックはつけられないだろうというレベルでも、できたと判断してしまう学生もいる。

    どこまで何をすればよいかという基準が曖昧で、結局はメタ認知能力に依存してしまうと感じました。本人は挨拶をしているつもりでも、周りからは足りないと言われる。質問しているつもりでも、周りから見ると少ない。そういった、自分を客観視できないことへのギャップを、指導者とのフィードバックですり合わせていく手段としては機能した部分もあります。ただ、その「すり合わせ」自体が、結局は指導者側の主観に頼ってしまう側面もありました。

    さらに、チェックリストはどうしても一般化されたものになるため、個別性に対応しきれない場面も生じました。どこまでリストの通りに進めて、どこから個別性を出して対応するか。その線引きが、結局は感覚に頼ってしまう部分が出てきたのです。リストの内容自体が、まだ不十分だったのかもしれません。

    資質の確認リストに関しては、さらに別の課題もありました。人によっての「当たり前」に個人差があるということです。

    指導者側が「当然できているだろう」と思っていることと、学生の認識にズレがあるケースがありました。どちらが正しいという話ではなく、その「当たり前」の基準が人によって違うということです。

    それを反映してあまりにマイクロに項目を増やすと、今度は学生の心理面にマイナスになるのではないかという懸念もある。どこまで細かくするか、その塩梅が難しいと感じました。


    完成ではなく、途中経過

    ここまで書いてきた取り組みは、完成した仕組みではありません。

    うまくいった部分もあれば、うまくいかなかった部分もある。仕組みを作ることで解決できる部分と、仕組みだけでは対応できない部分があった。

    次回は、理学療法場面での課題や、さらにブラッシュアップしていった内容について書いていこうと思います。

    皆さんは、実習指導や後輩指導で、仕組み化を試みた経験はありますか?うまくいったこと、いかなかったこと、よければコメントで教えていただけると嬉しいです。

  • 実習指導での葛藤。より良い実習のためにはどうすれば良いか

    前回の記事では、採用の壁に直面し、実習生の受け入れに注力していった経緯について書きました。

    今回は、実習指導の中で感じていた葛藤と、その中で少しずつ考え方が変わっていった過程について書いてみたいと思います。


    外来リハビリという環境の特殊性

    当院は整形外科クリニックです。入院施設はなく、外来リハビリのみを行っています。

    この環境には、実習という観点で見ると、いくつかの制約があります。

    まず、患者さんは毎日来るわけではありません。週に1回、2回という方も多く、入院のように毎日同じ患者さんを担当することが難しい。

    また、外来の患者さんは、わざわざ時間を作り、お金を払って来院されています。入院患者さんとは少し違う感覚があります。セラピストのリハビリを受けるために来ているのに、学生が関わる時間が長くなることへの配慮も必要です。

    そうなると、セラピストがつきっきりで学生のやっていることを見ているということも難しくなります。学生が関わる分、セラピストの時間を減らすわけにもいかない。

    そんな環境の中で、どうすれば充実した実習にできるのか。ずっと悩んでいました。


    業界の変化と、自分の中での葛藤

    近年、理学療法士の養成カリキュラムが変わり、実習の制度も変化してきました。

    以前は一人の患者さんをケースとして持ち、評価から治療まで一貫して経験していく形が主流でした。現在は、見学から共同参加、実施という段階を踏み、流れを経験することが中心になっています。どちらが良いという話ではなく、求められる到達目標や学び方が変わってきたということです。

    この変化自体を否定するつもりはありません。以前の実習が良くて、今が悪いという単純な話ではないと思っています。

    ただ、現場での解釈の仕方には疑問を感じることもありました。

    「とりあえず、考えさせないで、全部教えればいい」

    自分の解釈が正しいかはわかりませんが、現場ではそんな風潮が広がっているように感じることがあります。

    また、気を遣わなければならないことが増え、より高いレベルを学生に求めにくくなっているのも事実です。学生の顔色を伺い、良い印象を持ってもらおうと思えば、それもできなくはない。でも、果たしてそれが本当に良い実習なのか。

    そんな葛藤がありました。


    学生側に依存していた自分への気づき

    実習がうまくいかないとき、以前の自分は無意識に原因を学生側に求めていました。

    やる気があるか、ないか。知識があるか、ないか。コミュニケーションがとれるか、とれないか。

    熱意があっても不器用でうまく表現できない学生もいます。悪気はないけれど空気が読めず、人間関係がうまくいかない学生もいます。育ってきた環境や常識が、自分とは異なる学生もいます。

    そういった様々な要因で噛み合わず、良い実習にならないケースがある。それは事実です。

    でも、ある時から考え方が変わり始めました。

    この頃から、教育や学習論について少しずつ学び始めていました。ただ、まだ体系的に理解できていたわけではなく、試しながら考えを整理していった、という段階でした。

    その中で、どうすれば学生のポテンシャルを引き出せるか。どうすれば興味を持ってもらえるか。そう考えるようになりました。

    学生の能力に依存するのではなく、指導者側の誘導の仕方を考えなければならないのではないか。

    そのために、学生側の心理や、近年の若者の傾向、環境や常識の違いといった観点を意識するようになりました。

    スタッフ教育でも、学生指導でも、結局は同じことでした。うまくいかない原因を相手に求めるのではなく、環境や仕組みの問題として捉え直す。その視点を持てるかどうかが、指導する側の課題なのだと思います。


    「外来分野で実習を受けることは学生にとって良いのか」という葛藤

    もう一つ、ずっと抱えていた葛藤があります。

    整形外科クリニックという分野は、理学療法士としては王道ではありません。急性期病院のようにリスク管理や動作介助、チーム医療を幅広く経験できる環境ではない。一つの分野に特化しているからこそ、学べることは偏っています。

    そんな環境で実習を受けることは、学生にとって本当に良いことなのだろうか。

    一方で、当院のスタッフは皆、プロ意識が強い。学生には少しでも患者さんのためにできるようになってほしいという思いを持っている人が多い。

    その思いと、環境の制約と、業界の変化。それらの折り合いをどうつけるか。

    理想だけを追い求めても、現実的に達成できなければ意味がない。では、現実的に達成できる範囲で、何を大事にすべきなのか。

    そう考えるようになりました。


    外来リハの限界と、伝えたいことの折り合い

    試行錯誤の中で、少しずつ考えが整理されていきました。

    技術や知識を教えることは大事です。学校で学んできたことを臨床の場でどう生かすか、それを経験してもらいたいという思いは今もあります。

    でも、それ以上に大事なことがあるのではないか。

    患者さんと向き合う姿勢。患者さんを診るためには、もっともっと勉強しなければいけないという気づき。考え続けなければいけないということ。

    そして、今学校でやっている勉強が大切であり、実習が終わって学校に戻ってから、より一層勉学に励んでほしいということ。

    当時の自分には、この辺りが限界でした。外来リハという環境の制約と、学生に伝えたいことの折り合いをつけたラインが、ここだったのです。

    もちろん、これで完成ではありませんでした。ここから少しずつ、試行錯誤しながらブラッシュアップしていくことになります。


    次回

    次回は、この考え方をもとに、どんな取り組みを試していったのかについて書いていこうと思います。うまくいった点もあれば、うまくいかなかった点もありました。仕組みとして完成したわけではなく、まずはこの意識を持って試行錯誤を続けていった、という段階の話です。


    皆さんは、実習指導や後輩指導で、理想と現実の折り合いに悩んだ経験はありますか?よければコメントで教えていただけると嬉しいです。